熊本で失敗しない土地選び|設計事務所が教える地盤と構造の話
地盤が構造物にあたえる影響
地盤と構造物には密接な関係があり、地盤は建物の安全性を左右する大切な要素です。地盤が弱いと、建物の沈下や傾き、ひび割れなどの問題が発生し、場合によっては倒壊の危険性も考えられます。
そういった理由から、建物を建てる際には地盤の調査が不可欠なのです。
地盤の強さとは?
地盤の強さは、土の種類や深さだけで一様に決まるものではなく、地下水の水位や地中の含水量など、さまざまな要因が絡み合って変化します。
地盤が緩い土地は、建物の荷重負荷や地震力によって不具合を起こすリスクが高くなりますが、その中でも「液状化現象」や「地盤沈下」の危険性がある土地は軟弱地盤といわれており、それぞれ具体的にどのような不具合が起きるのかを簡単に説明します。
・液状化現象…粘土層に含まれる砂などの間隙に閉じ込められた地下水が上がり、土が収縮し、地面が沈んでしまう現象です。建物は水よりも比重が重いため沈下・傾斜する原因になります。
・地盤沈下…粘土層に含まれる砂などの間隙に閉じ込められた地下水が上がり、土が収縮し、地面が沈んでしまう現象です。その上にある建物が一部分だけ沈下してしまったり、全体的に沈下してしまったりして、歪みや破損をもたらす原因になります。
なお、これらの軟弱地盤ほど地震力の影響を大きく受け、揺れを増大させやすいことが分かっています。
出典:東京都都市整備局
地盤が強い土地を選ぶ方法はあるのか?
それでは、予め地盤が強い土地を見分ける方法はあるの?と思われた方もいるかもしれませんね。しかしこれについては、残念ながらそのような方法はないといえます。
実際に、同じ住宅地の中などすぐ近くの土地であっても、地盤調査の結果が異なるケースはよくあるのです。
ただし、河川の近くなど地中にたくさんの水分を含んでいる可能性がある地域や埋立地を避ける、盛り土された土地を避けるといったポイントをおさえると、地盤改良の確率を下げることはできるでしょう。
熊本でいうと、震災の時に液状化が多かった地域を避けるというのも一考かもしれませんね。
地盤調査は必須
以上のことから、軟弱な地盤が建物によくない影響を与えることはお分かりいただけたと思います。
また、地面の中の状況は地上からはうかがい知ることができず、調査の結果が出て初めて支持基盤となる地層や岩盤が地中のどのあたりに存在しているのかどうかが分かりますから、地盤の調査は家づくりにおいて必須のプロセスなのです。
そうはいっても、実は地質調査は法律で義務化されているわけではありません。ただ、住宅瑕疵担保履行法(引き渡し後10年以内に何らかの瑕疵が認められた場合、建物を建てた事業者が修理費等を負うことが義務付けられた法律です)が施行されてからは、瑕疵担保保険の申し込み時に地盤調査報告書等が必要になっているため、基本的に家を建てる前にはまず地盤調査が行われます。これらを踏まえ、地盤調査は実質的に必須項目であるといってよいでしょう。
なお、住宅を建てる際に用いられる地盤の調査方法としては、SWS試験(旧スウェーデン式サウンディング試験)が広く用いられています。SWS試験では、先端がスクリュー状になった棒におもりをつけ、回転させながら貫入し、回転数やおもりの重量から地盤の強度を調べます。調査は、荷重がかかりやすい建物の四隅+中央の5か所を対象に行うことが一般的です。
地盤改良の種類
調査の結果、地盤が弱いという判定が出たら、地盤改良をすることになります。
地盤改良の方法は、土地の特性によってさまざまな方法の中から選ばれることになりますが、次にざっくりと地盤改良の種類をみてみましょう。
・表層改良工法:
地表近くの地盤を固める工法で、セメント系固化材を混ぜて固めることで、地盤の強度を高めます。
・柱状改良工法:
固化材を注入して柱状の補強体を作り、地盤を支える工法です。
・鋼管杭工法:
鋼管を打ち込んで地盤を補強する工法で、大きな荷重を支えることができます。
また、近年はコンクリートではなく砕石を柱状にして地盤を支える工法も注目されています。
<建物の強さの話>
構造計算とは
さて、ここからは建物本体の強さにかかわる話です。
構造計算は、建物の耐久性や安全性を科学的に検証するために実施する計算です。
日本は地震、台風、大雪などの自然災害による住宅被害が多い国ですので、建物が外部からの力に耐えられるかを検証し、倒壊・損傷しにくい家を建てて居住者の安全や財産を守ることが不可欠です。
たとえば、建物の自重や積載荷重、地震や風圧などの外力に対する構造部材の応力(抵抗力)や変形を計算します。これにより、建物が安全基準を満たしているか、またどの程度安全なのかを把握することができます。
これらの計算は、建築物の安全性を担保し、住宅の品質を保証する上で欠かせないものです。
構造計算の種類
そして、構造計算をおこなうために実際に用いる計算方法があり、それを「ルート」といいます。
構造計算するためのルールを定めているのがルートだと考えるとわかりやすいかもしれません。
構造計算のルートは、大まかに次に紹介する3つに分けられ、さらに限界耐力計算も構造計算に用いられるため、合計で4つの計算方法を紹介します。
・許容応力度計算(ルート1)
許容応力度計算は、建物の自重と地震や台風時にかかる応力が、使用される材料の耐力を超えないことを確認します。
自重とは、建物そのものの重さであり、地震や台風時の応力は、それらの状況下で建物にかかる力を指します。
この計算では、建物が日常的な状況と自然災害時においても安全に機能することを確認することが目的です。
・許容応力度等計算(ルート2)
ルート1の計算に加えて、建物の変形やバランスが特定の数値以下であることを確認します。
これにより、建物が過度に歪んだり、不均衡になったりすることなく、構造的に安定していることを保証します。
ルート2までの計算を行った建物は、一般的に構造計算された建物と呼ばれます。
・保有水平耐力計算(ルート3)
この計算方法は、大地震が発生した場合に建物が部分的に損傷しても全壊に至らないことを確認することを目的としています。
これは、特に地震活動が活発な地域において重要な計算であり、建物が大規模な災害に対して一定の耐久性を持つことを保証します。
・限界耐力計算・時刻暦応答解析(ルート4)
建物の耐震性能をより詳細に分析するための高度な計算方法です。
限界耐力計算では、建物が耐えうる最大の力を計算し、時刻暦応答解析では、地震発生時の建物の応答を時間の経過に応じて詳細に分析します。
これにより、建物が最悪のシナリオにおいても安全性を保持することを確認することができます。
こうした計算方法は、木造住宅の設計と建築において、その安全性と信頼性を確保するために不可欠です。
構造計算が必要ない場合
ただし建築基準法では、構造計算をしなくてよいとしているケースも存在します。それが次にあげる項目です。
・新3号建築物:
延べ床面積が200㎡以下の木造平屋建てが該当。審査省略制度の対象(=構造計算の省略可)。
つまり、延べ床面積200㎡以下の木造平屋建てでは構造計算の省略ができるということです。
法的には不要でも、構造計算を行った方が良いケース
他方で、さまざまなデザインや建築様式の住宅が増えていることから、法的には不要でも構造計算を行なったほうが良いケースもあります。
例えば、スキップフロア。構造が複雑なので構造計算で数値化しておくと安心なものといえるでしょう。
また、大きな開口部があったり、広いリビングがある開放的なデザインの住宅なども構造計算をしておくと安心です。
以上、土地や建物の強度に関する記事をまとめてみました。
法律上は構造計算が必要なケースもあれば不要なケースもありますが、住宅は財産でもあり住む人の安全を守る箱でもあります。
素晴らしいデザインとともに、構造計算で安全性も両立した住宅を作っていきたいものです。